Plant Vibe feat. THREE Vol.6

無色透明。その中に潜む植物の恵み——蒸留家・江口宏志が感じる、おだやかな樹木の可能性

THREEの新しいフレグランス、「 エッセンシャルセンツ 」が放つのは、豊かな植物の恵み、精油のたくましくも美しい芳香。樹木のエッセンスが漂う 02“DAYS IN THE TREES” の個性を蒸留家・江口宏志さんとともに探ってゆく。

能動的に探す、大自然の魅力

千葉県夷隅郡大多喜町の「mitosaya 薬草園蒸留所」内の温室。温帯植物、果樹などが自然な形で栽培されている。
 

—大自然の中で暮らしてらっしゃいますが、どんな瞬間に植物のパワーを感じますか?

元々、薬草が育つ植物園があった場所に蒸留所を作りました。ここは山の中にあり、たくさんの自然にかこまれています。こういった場所ではなく都会で暮らしていたら、「あ、綺麗だな」「なんかいいな、気持ちいいな」という感覚が一般的かもしれません。でも僕は「可能性の発見」という視点。例えばサザンカの花を見てもオスとメスで香りが違ったり、実になった時にはオイルが摂れて面白いと感じたり。細かく観察して見ていくことで、さまざまな植物の面白さを感じています。

生い茂る木々の葉。日々表情を変えていく。

—どの植物からも力を感じるということですね。

今まで「香りがいい」「おいしい」「綺麗」と受動的に感じていたことに対して、今は、能動的に植物の魅力や個性を探す感覚でしょうか。日々発見があって面白いです。東京で暮らしていた時は「緑があるといいなあ」という感覚だけだったので、今はだいぶ見方は変わったかな。

江口さんのパートナー、祐布子さんが入れる生のハーブティー。
いきいきとした香りが広がっていく。

—蒸留酒づくりを通して、どんな発見がありましたか?

僕は、酒づくり、蒸留の技術をドイツに住む蒸留家のクリストフ・ケラー氏から学びました。その際、彼が作るジン「MONKEY 47」のひとつを飲み、こう思いました。「なぜこの透明の液体の中に、こんなにも豊かな味わいと香りが詰め込まれているのだろうか?」と。ジュニパーベリーやエルダーフラワー、さらにコリアンダーなどさまざまな47種の植物のエッセンスが入ったジンの豊かな表現力に感動して。それで実際に自分でもジンをはじめとするさまざまな蒸留酒を作ることになるのですが、いつも想像していたこと以上のことが起きます。

フレッシュな一瞬を閉じ込めて

前日に江之浦測候所で採ったみかんとレモンの香りを嗅ぎながら。

—今持ってらっしゃる柑橘系の果実もお酒になるのでしょうか?

柑橘系といえば、みずみずしくって酸味があって、そしてこの力強いオレンジ色。そんな要素がありますよね。これを蒸留していくと糖分がアルコールへと変化して甘さは減り、酸味も弱くなる。さらに鮮やかなオレンジ色も無くなっていき、さまざまな要素が削ぎ落とされていく。一方で、作られたアルコールの中にそれらのエッセンスがぎゅっと溶け込んでいくことに気づきます。柑橘系の果実を絞った時の一瞬、フレッシュな香りが舌と鼻から伝わってきて、蒸留する前の香りとはまた違った感動があって。

ひとつひとつ異なるミツバハマゴウの葉の表情を見つめて。

—蒸留酒と同様に、さまざまな精油を閉じ込めたフレグランス「エッセンシャルセンツ」にも同じ要素がありますね。

もともと植物の香りを主としたものが好みですが、この香水は精油を使っているのに軽すぎず、植物が持つ深みを感じます。例えば、 00“WRITTEN IN STONE” はその名から推測して、「石の香りってなんだろう?」と興味が湧くし、それをゼラニウムやレモンで表現しているのが興味深い。この何の香りだろう?という謎めいた感覚ってすごく大切で、例えばこのミツバハマゴウ(三葉浜荊)の葉を見てください。表はグリーンで裏はパープル。どこかお寺っぽいというか、沈香の香りがしませんか? こういったひねりがある、ちょっと“変”な植物にいつも興味があります。それぞれが違って、良さがあって。各々の魅力を探す作業が好きですし、それらが醸す香りも好き。そんな曖昧な植物の良さを「エッセンシャルセンツ」からも感じます。

穏やかな心へと導く、樹木のオーラ

冬の張り詰めた空気の中であたたかな光が差し込む。
 

—ここはたくさんの木々が生息しています。森の中に身を置くと心が穏やかになることが多いのですが、それはなぜでしょうか?

ほぼ毎日、この木々をくぐり抜けながら犬を連れて散歩をします。すると、やっぱり自然と気持ちが落ち着く感じがあって。樹木や土とか、幼い頃に触れた記憶と結びつくこともあるのかな。それがどういう理屈かは僕にはわかりませんが、山や木々の中、その空気の中に身を置くことで心地がよかったり、穏やかな気持ちになる人はたくさんいるのではないでしょうか。都会にいながら、“この空気”を纏うことができる。それがこの 02“DAYS IN THE TREES” かもしれませんね。存在しない部分を補い、心穏やかになれる一本のような気がします。

—このフレグランスも00“WRITTEN IN STONE”と同じように、さまざまな植物のニュアンスが溶け合っていると感じますか?

蒸留酒の蒸留の工程では、まず初めに高いアルコール度数のものが出て、だんだん度数が下がっていって味わいが変わっていきます。はじめは刺激が強く、香りは単調で“一種類の香り”という印象。その後、時間が経過していくと徐々に多元的な香りになってくる。ボディやハートと呼ばれるその部分では、アルコールと水に溶け込む成分が抽出されることで、複雑な味と香りが現れます。その後のテールと呼ばれる最後の部分は、アルコール度数が低く水っぽいので、カットすることが多いのですが、僕はその部分も好き。その部分をとっておいて、色々混ぜてまた蒸留します。「ここになんかいるな」、「ここにもこの香りが」と植物の個性を探っていく。それと近い何かを感じます。

江口さんが纏った、00“WRITTEN IN STONE”と02“DAYS IN THE TREES”。
 

—蒸留酒とフレグランスには共通するものが多そうですね。

香りもお酒も無色透明。その中にさまざまなものが凝縮されている点はたしかに同じかもしれません。僕自身は、世の中にないお酒、誰も飲んだことがないものを作っているつもり。その上で必要最低限のラベリングやボトリングを施す作業もどこか似ています。それを手掛かりに人に選んでもらい、味わってもらう。纏ってもらう。“植物の力”と言っても受け取り方はそれぞれですが、自然に触れ合う時間が少ない人が香りで植物のエッセンスを感じたり楽しんだり、無いものを補う喜びがある。それって、とても贅沢なことですね。

現在、「エッセンシャルセンツ」の定番の香りは5つ。
ベルガモットやローズの香りがシックにツイストされた01“IN BLOOM”や、甘酸っぱいブラックカレントが軸となる03“BLACKCURRANT BERET”。
ふくよかなカルダモンが香る04“SPIRIT OF EDEN”もおすすめ。

Profile
江口宏志(蒸留家/「 mitosaya」主宰

大規模な書店では手に入らないインディペンデントな書籍を扱うブックショップ「ユトレヒト」のディレクターを経て、蒸留酒の世界へ。2013年より、ジン「MONKEY 47」創業時のマスターディスティラーでも知られる蒸留家クリストフ・ケラーの元で技術を学ぶ。2018年には千葉県にある植物・薬草園の跡地に「mitosaya薬草園蒸留所」を開く。「自然からの小さな発見を形にする」をモットーに、これまでに約160種の蒸留酒、季節の恵みを閉じ込めた加工品などをリリース。著書に『ぼくは蒸留家になることにした』(世界文化社)。

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