Plant Vibe feat. THREE Vol.7

甘美な素材の掛け算——シェフパティシエール・岩柳麻子が考える、ほろ苦いカカオのアイデンティティ

精油のみで香りを構築したTHREEのフレグランス、「エッセンシャルセンツ」。ほろ苦くも甘い、かじりかけのチョコレートのようなX01“SWEET SEEDS OF LOVE”を「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」シェフパティシエール、岩柳麻子さんと一緒に香る。

微差にこだわった、おいしい掛け算

完全予約制のパフェは新鮮な素材とともに毎朝、丁寧に作られている。
 

—岩柳さんによるパフェが多くの方々に愛されています。どのような時にひらめきがあるのでしょうか?

パフェだけでなく、そのほかのお菓子に関して、いつも何かしら想像して考えています。自転車に乗って道を走っている時に良いアイデアが思いつく時もあれば、静かにデスクに向かっている際に急に記憶と思考が結びついてレシピができたり。ただし、思いついた時に使おうとした果物は旬ではない事もあります。年間通しての果物の旬を意識して、先々のレシピを考案しています。

等々力駅に程近い、線路沿い。あたたかい日差しを受けてインタビューを受ける岩柳さん。

—その時の旬の素材を試して作るわけではないのですね。

もっと小さな規模でやっていた時は、ちょうど旬の果物で試作して提供していましたが今は多くの方々にお届けしたいという気持ちがあるため、旬の果物の時期や期間を予測して新しいレシピを描いています。例えば、夏はパフェとして使える果物が豊富。毎年違う果物を素材に出来たり自由度は非常に高いです。旬な果物の種類が少ないシーズンは、メインテーマを果物にせず、和パフェやお茶、コーヒーをメインに使ったり。

「パルフェビジュー®️ サンヴァロンタン」はフランボワーズやブラックベリーなど甘酸っぱい果実と、
ほろ苦いカカオ、甘美なチョコレートが溶け合う極上の一品。

—素材と素材の掛け合わせで新しくて美味しいスイーツが生まれると思います。組み合わせに関してはどのような工夫がありますか?

当店は、様々な専門のプロチームの集団で成り立っています。その中でも全店のドリンクマネージャーであるバリスタから面白いアイデアをもらう事が多いです。コーヒー豆には本当に多くの種類があり、抽出方法も様々。豆がもつポテンシャルを最大限高める技術が非常に難しくもあり、面白さであると言われていて。苦味の要素だけだと思っていたコーヒーが紅茶のような味わいを持っていたり、ブルーベリーやナッツのニュアンスを醸したり、時間や温度の変化で細かく味が変化してきます。その中で、今回のパフェの果物と合う・合わないもあり、その微差を学び参考にしていきました。例えば、ミルクのブランマンジェにタイムとローズマリーの香りを加えると、香りなしで合わせた時よりもメインテーマの果物と“ビタッ”とハマる。その香りの奥行きに、新しい美味しさが潜んでいると思っています。

甘やかな安心感に包まれて

多くのスタッフと心をシンクロさせ、手早く確実にお菓子を創造していく。これは毎朝の情景。

—組み合わせの妙は香水、例えば「エッセンシャルセンツ」とも繋がる部分はありますか?

このフレグランスはどれもシンプルでありながらもさまざまな精油が加わっていて、複雑な側面もありますよね。香り同士を重ねて構築するとこうなるのか、と発見がありました。そして、香りは記憶に刻まれるもののひとつ。忘れかけていた人、その人の香りで思い出せることってありませんか?複雑でフラットじゃない奥行きある香りは特に記憶に刻まれる。それってパフェにも言えることかな?と。その構築された深い味わいがあってこそ、「また食べたい」「香りたい」「楽しみたい」と思ってもらえると信じています。

限定のX01“SWEET SEEDS OF LOVE”とシグネチャーとなる 00“WRITTEN IN STONE”

—「パルフェビジュー®️ サンヴァロンタン」とも似た部分がありそうな、X01“SWEET SEEDS OF LOVE”を試してみていかがでしたか?

チョコレートが持つ素材の力ってすごいんですよ。苦い、甘い、酸っぱいだけじゃなくて、ナッティだったりフルーティだったり、中にはスパイシーなものだってある。チョコレートの種類によってフルーツと組み合わせた時に、その効力や個性をより高く発揮できる素材だと思っています。それと近いことが、この香水の中でも起きている気がします。カカオに添えられたローズやオレンジ、ゼラニウムがより奥深いムードを作っていますよね。纏うとあたたかな何かに包まれているような安心感を覚えました。

朝の仕込み後、THREE「エッセンシャルセンツ」を太陽の光に透かして。
 

—パフェ作りと同じようなさじ加減があるのですね。

複雑にしない方が素材は活かしやすい。でも、その上でレイヤードしていくって大変ですよね。そこで重要になってくるのが、ボリューム感の配分です。例えば、メインがオレンジ、柑橘系のパフェだったら、基本、柑橘の美味しい部分はそのまま食べてもらう。50gの柑橘を使っていても、ソースは5gだったりゼリーは10gだったり。柑橘にほかの素材を少し加えることで、そのまま食べる時よりもさらに柑橘の良さが伝わります。そのさじ加減を大切にしています。“ただの美味しい”ではなく、そのもっと先。「あ、これこれ!」となる“本当の美味しい”ところを目指しています。

生活を豊かにするエッセンス

オープンと同時に約20種類ほどのパティスリーが並ぶ。どれも繊細かつどこかに驚きを内包した、幸せの味。

—スイーツを楽しむことの醍醐味とはどんなものでしょうか?

実は以前、私はファッションのカテゴリーで色々な取り組みをしていました。ファッションを否定しているわけではなく、ファッションはそれぞれの好みや主観が強いものなので、高いクオリティのものだったとしてもなかなか“好き”を共有できないのが事実だと思います。一方で、食べ物って共有できるものが自然と多いと思いませんか? それぞれ違うファッションの女の子たちが徹夜明けに何か一緒に食べて、みんなで「美味しいね!」って共感することって珍しくない。より多くの人々と幸せをシェアできて、つながることができる。その延長線上にお菓子やパフェは存在するので、とても魅力を感じます。

X01“SWEET SEEDS OF LOVE”と00“WRITTEN IN STONE”をレイヤードすることで、カカオの風合いがキュッと引き締まる。また異なる奥行きを感じて。
 

—今はバレンタインやホワイトデーのシーズンです。大切な人や身近な人にお菓子をあげることで得られることとは何でしょうか?

正直なことを言えば、“お菓子”ってなくてもいい。まずは日常で必要不可欠な食事が第一。お菓子は、日常から少し離れているからこそ特別なのかなって思います。誰かのことを想って、時間をかけてたったひとつのチョコレートを選ぶ。いつもより奮発して購入する。そして心を込めて渡す。そのすべてが本当に贅沢です。同じように香水も生きていく上では必要ない。でも生きていく上で、“無の自分”に纏うことで、目に見えない何かが豊かになるのは事実です。なんてことのないファッションで素敵な香りをまとっている人に出会うと、素敵だなって思いますよね。この「エッセンシャルセンツ」もそんなスタイルを作り上げる際に役立つ、素敵な香りですね。

Profile
岩柳麻子(PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIシェフパティシエール)

染色家としての活動中にお菓子作りを独学で習得。パティシエとしての活動を開始する。2015年には自身の名を冠した「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」を世田谷区等々力にオープン。宝石のような輝きと繰り返し味わいたくなる「パフェビジュー®️」が話題となり、その繊細なケーキやお菓子を求め海外や「遠方」からの顧客も。同エリアに2018年に焼菓子やジェラートなどを扱う「ASAKO IWAYANAGI PLUS」、2021年にモーニングから、ランチ、アフタヌーン展開する「ASAKO IWAYANAGI SALON DE THÉ」をオープン。2023年に都都外初の「ASAKO IWAYANAGI FUKUOKA」をオープン。

THREE ESSENTIAL SCENTS
#Plant Vibe feat. THREE