#006_2「Green fingersー緑の専門家」

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造園家としてショップから個人宅までさまざまな庭を手掛けるかたわら、イラストレーターとしても活躍する大野八生さん。日々、植物と向き合った生活をしている大野さんに、その楽しさについて伺いました。

大野八生(おおのやよい) 1969年、千葉県生まれ。園芸が好きだった祖父のもと幼い頃より植物に親しむ。植物関係の様々な仕事を経て庭を作る仕事へ就く。造園会社退社後、描き続けてきたイラストと植物の仕事でフリーに。イラストレーターと造園家として活動。著書に『夏のクリスマスローズ』(アートン新社)、『じょうろさん』(偕成社)、『盆栽えほん』(あすなろ書房)など。
 

―――植物を中心としたお仕事をするようになった経緯を教えてください。 「祖父が園芸好きで、菊やさくら草を育てていたことを覚えています。おじいちゃんっ子だったので、私も子どもの頃から植物が好きでしたね。美大に通っていた頃や卒業後も、花屋さんや園芸店で働いていたのですが、大体3年ぐらい働くと、季節と植物のサイクルが見えてきます。そうしているうちに、植物の寄せ植えをしてみたり、植物を使ってものづくりをしてみたり、少しずつ世界が広がっていったんです」 ―――その後、造園の世界に入っていかれたんですよね? 「はい。卒業後も彫刻などをずっと続けていたのですが、公園の基礎工事や街路樹の手入れなど、街の中での大きな仕事に携わっているうちに、これまで自分がつくっていたものは『自然と比べたらあまり大したものではないな』と思って。それよりも植物のお手入れをしたり、木のある空間をつくったりして、緑と人を結びつける仕事をしていきたいと自然に思うようになりました」

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―――四季の移り変わりをとても感じるお仕事だと思いますが、好きな季節はいつですか? 「冬が好きです。私たちの仕事は、庭のしたくを秋から始めます。だから冬は、春のための仕込みの時期。寒くなり、木の枝から葉が消えて、地上の風景にあるものが少なくなると、普段は見えにくいお庭の骨格がよく見えるんですね。寒さで空気がピリッとしているけれど、春に向けて準備をしている気配も感じる。そんなところも好きですね」 ―――大野さんは、どんな時に植物の魅力を感じますか? 「大きな木の下で感じる風が気持ちよかったり、鳥の声が聞こえたり。植物の近くで感じる空気は、お金では買えないものだと感じますね。植物のお手入れをした後のピンと張りつめた空気感も、とても好きです」 ―――お手入れをすると、空気が変わるんですか? 「たとえば、ここ(テーブルの近くの花壇)に花が咲いていますよね。このままの姿でもきれいかもしれない。でも、枯れた部分や伸びてしまった部分を取ってあげて、雑草を抜いて、根にお水をあげて、整えてあげる。そうすると植物の表情が変わりますよ。周囲の空気までピンと澄んできれいになるように感じるのです」

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(右から時計回りに)剪定鋏、ハッカ油、麻の紐、携帯用のこぎり、鋏研ぎ

続いて、大野さんが仕事中に使うアイテムを見せてもらいました。どれも丁寧に使い込まれています。 剪定鋏……通常18~20センチほどのものが多い剪定鋏。こちらは15センチで、女性の手でも扱いやすいのだとか。 ハッカ油……夏の熱中症対策に。水で濡らしたタオルに少量をふり、タオルを首などにまくと、気持ちいい清涼感が。 麻の紐……植物をいったん束ねたり、支柱が必要なときに使用。 携帯用のこぎり……細い茎から太い枝まで、「切る」作業が多い庭仕事。剪定鋏で切れない時には、こちらを使用。 鋏研ぎ……鋏と研ぐために持ち歩いている鋏研ぎは、包丁としても使えるのだそう。 そして、これからの季節に気になるのが、庭仕事中の熱中症対策。外で作業することも多い大野さんが心掛けているのは「水と一緒に塩分を摂ること」。梅干しを入れた氷水を飲んだり、作業中に昆布、干し梅、ドライフルーツなどを小まめに摂ったりするのだそうです。この工夫は日常生活の中でも生かせそうですね。 次回は、植物のお手入れ方法や、日常に植物を取り入れる工夫についてお聞きします。