#046_3 秋色の指先でめくるページ ー感性を磨くエッセイ5選ー

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秋の夜長。前回までにご紹介した「ネイル&ハンドケア」「セルフネイル」で手もとを磨き上げたら、いよいよ読書タイムのはじまりです。今年の秋のブックセレクションには、就寝前や移動中などの隙間時間にも読みやすい、主に女性作家によるエッセイの短編集を揃えてみました。


#01 「夜明けのラジオ」 石田 千

季節ごとの旬の美味しさや、長い付き合いの台所家電、子供の頃の酸っぱい思い出……。素朴で些細な、ごくごくプライベートなエピソードが、自分の心の真隣から語られてくるようなエッセイ集。とても仲の深い友達、もしくはもう一人の自分と話しているような読書体験に心が和みます。 暮らしの中で触れ合う場面や感情に、五感と心を傾けて、ときに寄り添い、ときに一つになる。形式的なライフスタイルではなく、心で「丁寧に暮らす」ということの滋味をあじわえる一冊です。


#02 「愛情生活」 荒木 陽子

官能的で、情愛的で、「凛と立つ」というよりは「しんなり委ねる」イメージ。それでいて強烈な肝っ玉を感じさせる、まさに「女らしい女」像を目の当たりにするエッセイ集。夫の荒木経惟とののろけた会話、旅先のホテルの思い出、細かに描写された美々しい晩餐……すべてがとてつもなく粋に感じられると同時に、そこに孕まれたタブーの気配に心が一段と湧き立ちます。 そして驚くべき感動は、一冊を通して時代の古さを欠片も感じさせないこと。未来永劫に干からびない本物の「みずみずしさ」が、あらゆる字間を満たしています。


#03 「あなたを変える枕草子」 清川 妙

「春はあけぼの」でお馴染みの『枕草子』から一部を抜粋し、清少納言の言葉選びのセンスや、情景描写の妙、人並みはずれた感受性について解説した一冊。 「生きてもいたくない」と世の中に憤ったかと思えば、ちょっと上等な白い紙を手に入れて「ま、いっか」と即座に気持ちを切り替えられるような、大変ポジティブな人柄でも知られる清少納言ですが、実は彼女も動乱の時代を生きた人。美しいものを細かに捉える眼差しと、苦境に立つほど冴え渡るユーモア精神は、千年以上の時を経て今なお、私たちに強く美しい生き方を示してくれます。


#04 「『美人』の条件」 石井 ゆかり

美しさとは一体何であるのか。「美」を提案し「美」を追求するブランドである私たちにとっても、その問いに普遍的な答えを出すのは大層難解なこと。だからこそ、その問いは常に頭の片隅にあり、ときどきこの本を読み返したくなるのです。その大問の答えが本の中にまるっと用意されている訳ではないのですが、様々な視点からひとつひとつの問いに対峙して真摯な言葉を紡ぐ作者の思慮は、私たちの終わらない問答の旅を励ましてくれます。 3つのチャプターで構成される本作のうち、表題作である「『美人』の条件」は、THREE TREE JOURNALのアーカイブスでもお読みいただけます。


#05 「アンソロジー おやつ」

文筆家をはじめとする42名の著名人による、「おやつ」にまつわるエッセイを集めた一冊。チョコレート、ドーナツ、白玉、今川焼き……。ありふれたおやつでも、思い出や思いの丈が深いぶんだけ、その味わいはかけがえのない特別なもの。 思わず感情移入して胸がきゅっと詰まるのは、脚本家である木皿泉さんによる「苺のショートケーキ」のエピソード。おやつと自分をつなぐ記憶の中の感情はときにほろ苦いこと、その分だけより一層おやつの甘さが胃に沁み渡ることを、じんわり思い出すのです。


しばらく雨の日が続いた、この秋のはじまり。お出掛けには少し不便でしたが、薄暗い昼下がりや、布団に早く潜り込みたい冷たい夜、雨の音に包まれながらの読書もまた、至福の時間でした。これからは黄金色の秋の陽がページの活字を照らす、爽やかなお天気の日も増えて行くことでしょう。みなさんが読み始める本やお読みになった本も、「#THREE紅葉」や「#THREETREEJOURNAL」でぜひシェアしてくださいね。 季節の恵みと楽しみを存分にあじわって、素敵な秋をお過ごしください。