「ニュートラルな石の香りを起点に」——アロマ調香デザイナー・齋藤智子が提案する、精油フレグランスのレイヤード術

100%精油で創られたTHREE「 エッセンシャルセンツ 」のシグネチャー、“ 00 WRITTEN IN STONE ”。石を想起させるこの香りを基軸に、香りと精油のスペシャリストがさまざまな芳香を重ねるレイヤードのテクニックを解説する。

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気負わずに纏う、石のニュアンス

—「エッセンシャルセンツ」の“00 WRITTEN IN STONE”は、このシリーズを代表する香りです。精油を扱うプロとして、どんな印象を受けましたか？

まず受けた印象は「がんばってない」という雰囲気ですね。この感覚は、2020年代のキーワードとも言えるような気がしています。常にコンセプトを掲げてスタイルを構築していくことが必須、もしくは求められていた以前のムードとは打って変わって、ナチュラルであること、“そのまま”の自分でいることに価値を見出す人が増えています。“00 WRITTEN IN STONE”の香りの印象はその最たるもの。余計な力を使わずに、ちょうどいいところへ連れていってくれます。

—なぜこのフレグランスは、そういったモダンな感覚を呼び起こしてくれるのでしょうか？

このひんやりとした印象。深呼吸した後のような涼やかさ。これは、フランキンセンスが持つ大理石のひんやりしたニュアンスとハーバルなティートゥリーによるものです。フランキンセンスの香りは主張が少なく、ただそこに存在している静けさがある。加えて、青々としたゼラニウムの精油が、懐かしさを引き出しくれる。この「知っているかも」という、幼い頃も記憶と結びつくことで、多くの人は安心感を覚えます。

—それらが合わさって、無機質な石のニュアンスが生まれているのでしょうか？

“00 WRITTEN IN STONE”を嗅いだ時、ほとんどの人がゼラニウムやフランキンセンスの印象は受けないと思います。さまざまな精油がいい意味で存在感を放たずして同居している。その上で、禅だったり、いつか触れた石を思わせる香りが漂っています。石って、太陽にあたれば暖かく、影に身を潜めればひんやりと冷たくなって、ザラつきもあればすべすべで滑らかなテクスチャーもありますよね。人それぞれが思うさまざまな心地よさに近づいてくれる点が、とっても素敵。

—他人のためではなく、自分のための香りという印象でしょうか？

色々あっても、ここに戻れば“自分”というコアが定まる……そんな香りだと思います。気持ちが沈んだ時、もしくは、テンションあがりすぎた状態などから、一旦もどす。その上で今日はどんな気持ちになりたいか、どう見られたいかを加えていく。自分という存在の輪郭がくっきりしていく、まさに「自分のための香り」です。現代社会において、PCやスマートフォンによる情報過多で、脳を使いすぎていると思います。頭でっかちになった状態を小さく戻す。または、そぎ落とす。ニュートラルに戻す香水って、これまでに市場には出てこなかった印象です。

—特定のアロマが主張しない点もなんだか新しいですね。

精油の香りを楽しむ、といえば、ローズやイランイランなどの花々の香りや、ベルガモットやオレンジなどのシトラスの香りなど、わかりやすいものが多いです。「エッセンシャルセンツ」のほかの4種類香りも含め、何か特別に精油の香りが主張するものではなく、今までになかった個性を感じますね。

ニュートラルな自分に重ねる、植物のアイデンティティ

—精油のフレグランスを組み合わせることは可能でしょうか？

一旦ニュートラルに戻した状態……“00 WRITTEN IN STONE”をベースにして、例えば、“03 BLACKCURRANT BERET”をレイヤードしてみる。すると単品使うよりも、ブラックカラントの果実味やジャスミンの華やかさがキュッと締まります。本能のスイッチを入れるような感覚で、甘酸っぱさを楽しめるのではないでしょうか。また、ふくよかなカルダモンを含む“04 SPIRIT OF EDEN”とレイヤードすると、スパイシーなニュアンスが何かに集中したい時の手助けになったり、どこかパワーが湧くような感覚になったり。一度冷静な状態から新しい香りを重ねることで、より香りの持つ個性を際立たせたり、わずかな香りのアジャストを楽しむことができそうです。

—日中以外の精油フレグランスの楽しみ方、レイヤード術はありますか？

起き抜けの朝に“ 00 WRITTEN IN STONE ”を纏ってリセットしたり。あとは、夜に“ 01 IN BLOOM ”を重ねてみると、人に寄り添う際の静かなフックになったりするかもしれません。柔らかな花のニュアンスが“00”と合わさることで凛としたイメージなり、自分はもちろん相手にも多幸感をあたえてくれる気がします。さらに深い夜……例えば就寝前に苔を含む樹々の香り、“ 02 DAYS IN THE TREES ”を纏うのもおすすめ。穏やかな気分を深め、落ち着きが続いていきます。この土っぽさ、大地の芳香でおおらかな気持ちになれるはずです。足首につけてさりげなく香りを楽しむのもいいですね。

—異なる香りを重ねてみても、どれもマッチするのはなぜでしょうか？

どれもさりげなく、馴染む力加減であることはもちろん、5種類すべてにゼラニウムが入っているため、レイヤードした際に美しくシンクロします。香水でありながら、植物本来の香りがそのまましっかり香るため、香水が苦手な人でもナチュラルに使用できるはずです。なにより、つけている自分に違和感がない。これが「エッセンシャルセンツ」の醍醐味です。香水に合わせるのではなく、あくまでも自分に香りが寄り添ってくれる。いつでもどこでも纏えるサイズも含め、精油やフレグランスのある生活を始めるのに最適な存在だと感じています。